【書評】榊巻亮ほか『ファシリテーション型業務改革』──3万台タブレット更新をストーリーで追う実名ノンフィクション

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こんにちは、水野です。MA/CRM業界のマネージャーとして本業でAIビジネスを設計し、副業でスタートアップの営業戦略を支援しています。そしてミュージシャン活動もしています。

今回は、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの榊巻亮さんと、住友生命の百田牧人さん・岡本晋太朗さんによる『ファシリテーション型業務改革 ストーリーで学ぶ次世代プロジェクト』(日経BP(日本経済新聞出版)、2020年8月刊)について、2026年5月に通読し、実務目線で整理しました。紙面は約380ページ前後とボリュームがありますが、「成功談のスライド集」ではなく、葛藤つきのストーリーで読めるのが特徴です。

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一言で言うと、大企業で数万人規模の現場に届くシステム更改を、ファシリテーションを軸に「腹落ち」まで落とし込んだ実例を、内部と外部の両眼で追える1冊です。私自身も大規模IT・業務変革の発注者側・支援側の両方に関わった経験があるので、とくに「キーボードを叩くPM」だけでなく、会議の設計と対話の質まで含めてプロジェクトを見たい人には手に取ってほしいと感じました。

この本は誰向け?

主な読者像は次のような人だと思います。

  • 金融・大手サービス業などで、営業職や店舗・外勤を支える端末・業務アプリの入れ替えに関わる企画者・プロマネ・IT発注担当
  • 外部コンサルやベンダーと組み、ステークホルダーが多く、合意形成に時間が溶けるプロジェクトを推進している人
  • 「要件定義」「WBS」「炎上」といった語彙だけでは現場の熱量や意思決定の機微が見えず、もう一段立体的に学びたい人
  • 変革をトップダウンの号令だけに頼らず、メンバーが自ら動く形に近づけたいマネージャー層

逆に、RFPの書き方やアジャイルの用語集を短時間で欲しい人には向きません。本書の価値は、プロジェクト全体を時系列で追体験する「文脈の厚み」にあります。

ハイライト3つ

1. コンサル視点と社内PM視点の「二重のレンズ」

本書の取材構成は、肩書の通り、支援側のコンサルタントと、事業会社内でプロジェクトを担う社員の視点が交互に入ります。

この二重構造があると、例えば次のようなズレが地続きに見えてきます。

  • 支援側から見た「なぜ今このワークショップをやるのか」というプロセス設計
  • 現場から見た「本業と両立しながら、納期と品質をどう守るか」という現実

どちらか片方だけだと語られがちな「美しい改革論」と「泥臭い運用上の妥協」の間を、ストーリーが橋渡ししてくれるのが読み味です。

2. 冒頭で厚く割かれている「コンセプト」をめぐる対話

Amazonや読者レビューでも繰り返し言及されているのが、初期局面でのコンセプトづくりに紙幅を厚く配している点です。仕様の議論に入る前に、「何のためにやるのか」「現場の仕事はどう在るべきか」といった問いを、関係者が言葉にしていく過程が丁寧に描かれます。

DXや大規模ITで起きがちな「要件リストはあるのに、心がついてこない」状態に対して、ファシリテーションを通じて納得感のベースラインを先に作ろうとする姿勢が貫かれている、という理解で読み進めると実務にマッピングしやすいです。

3. 成功の陰にある「あるある」の連続が、逆に安心になる

本書が単なる成功自慢にならず学びとして残っているのは、プロジェクトのなかに人と組織の変動が如実に出てくるからだと感じます。たとえば、キーパーソンの異動やリーダー交代、支援体制の変化、当初構想とコスト現実の板挟み、受け入れ試験段階での期待値のズレなど、大型案件で起こりうる痛みがストーリーに埋め込まれています。

「うちの現場だけが苦しいわけではない」と認知できることは、メンタル面でも設計面でも実利的です。問題の種類を先に名指ししておけると、打ち手の選択肢が見えやすくなります。

こんな人におすすめ

  • 発注者側のIT企画・情シスで、「ベンダーを管理する」だけでなく「現場の合意をつくる」責任を押し付けられている人
  • SIer・コンサルで、成果物納品の手前にある「腹落ち」と「当事者意識」をどう設計するかに悩んでいる人
  • メンバーがフラットに議論し、最後は各自が意思決定にコミットする自律的なチームの動き方を事例で知りたい人
  • プロジェクトマネジメントの用語は知っているが、大企業の政治・文化のなかで実際にどう進むかの臨場感が欲しい人

気になった点・読み方のコツ

  • ページ数が多いので、電子版なら章見出し+検索を使い、まず全体の年表・登場人物の関係を掴むと負荷が下がります。
  • 図表や細かな数値は、重要な箇所ほど紙または公式の電子版で原典を確認するのがおすすめです(本稿では公開梗概レベルにとどめ、長い引用は避けています)。
  • 「ドロドロした組織政治の全面露出」を期待すると、業界読み物としてはやや潔さを感じる向きもあるでしょう。ただ、実名でこの粒度まで公開している事例としては貴重、という評価は成り立つと思います。

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ファシリテーション型業務改革 ストーリーで学ぶ次世代プロジェクト 榊巻亮・百田牧人・岡本晋太朗

榊巻亮・百田牧人・岡本晋太朗/日経BP(日本経済新聞出版)

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まとめ

『ファシリテーション型業務改革』は、大規模端末刷新というビッグプロジェクトを、成果のスライドではなくプロセスと人の物語として追えるのが魅力です。私の視点では、特にコンセプトづくりと合意形成を「工程」として扱う発想は、いま論じられるDX・AI導入でもそのまま効くタイプの教訓だと感じました。


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